はじめに|自治会DXから行政のDXへ
これまで自治会DX研究室では、自治会の情報伝達、役員の負担軽減、業務の引き継ぎ、公民館や行政との連携など、住民による地域活動のデジタル化について考察してきました。
今回は、少し視点を変えてみたいと思います。
取り上げるのは、自治会ではなく、自治会と密接に関係する「自治体」、すなわち行政組織そのもののDXです。
自治会と自治体は、名前こそ似ていますが、組織の性格も役割も異なります。
自治会は、住民が自主的に組織する地域団体です。一方、自治体は、法律や条例などに基づいて行政サービスや地域政策を担う地方公共団体です。
自治会は行政の下部組織ではありません。しかし、防災、地域情報の提供、各種申請、地域行事への支援など、両者は多くの場面で連携しています。
だからこそ、自治会DXの将来を考えるには、連携先である行政のDXにも目を向ける必要があります。
行政の仕事がデジタル化されても、自治会との情報のやり取りが従来のままなら、地域全体の改善にはつながりにくいでしょう。
反対に、自治会側の実情や要望が行政の仕組みづくりに反映されれば、双方にとって使いやすい方法が生まれる可能性があります。
自治体DXと自治会DXは別々の取り組みでありながら、連携・協働によって成果を高められる関係にあります。
そんな視点から情報を調べていたところ、興味深い調査結果に出会いました。
2026年7月、一般社団法人自治体DX推進協議会が公表した生成AI活用に関する調査です。
回答した133自治体の78.2%が生成AIの活用に着手している一方、82.7%が「職員のリテラシー不足」を課題に挙げていました。
導入が進んでいるのに、なぜ「使う人」の問題が最大の課題として残るのでしょうか。
そして、その「リテラシー不足」とは、本当に職員個人の能力だけの問題なのでしょうか。
今回は行政DXの実態を読み解き、その課題が自治会との連携・協働にどのような示唆を与えるのかを考えてみたいと思います。
1.自治体の生成AI活用はどこまで進んだのか
まず、調査結果を確認してみましょう。
自治体DX推進協議会は2026年6〜7月、全国の自治体の文書管理・情報システム担当部署を対象にWeb調査を実施しました。
回答したのは、41都道府県に所在する133自治体です。
生成AIの活用状況は、全庁的な活用が54.9%、一部部署での活用が9.0%、実証・試行段階が14.3%でした。
これらを合わせると78.2%になります。

ただし、この数字は全国すべての自治体の導入率ではありません。また、実証・試行段階と正式導入も区別する必要があります。
調査から読み取れるのは、回答自治体の間で生成AIの活用や試行が広がっているということです。
一方、生成AIを使える環境が整ったことと、行政業務で十分な成果を上げていることは、必ずしも同じではありません。
2.「リテラシー不足」82.7%の意味
同じ調査で、生成AI活用の課題として最も多く挙げられたのが「職員のリテラシー(活用スキル)不足」の82.7%でした。
しかし、ほかの回答にも注目する必要があります。
個人情報・機密情報の取り扱いが63.2%、利用ルール・ガイドラインの未整備が40.6%、庁内のデータ・ファイルの未整理が28.6%でした。

これらを並べてみると、行政の生成AI活用には、職員の知識だけでなく、組織として整えるべき条件があることがわかります。
たとえば、生成AIの操作方法を習得していても、どの情報を入力してよいのかが明確でなければ、安心して業務に使うことは難しいでしょう。
AIが作成した文章を誰が確認し、どのような手順で利用するのかも重要です。
ここで考えたいのは、職員のリテラシー不足を否定することではありません。
職員の能力の問題と、行政組織としての仕組みの問題を区別して考える必要があるのではないか。
この点が、今回の調査で最も注目したいところです。
3.行政DXを妨げるのは、個人の能力だけなのか
同じ一連の調査では、文書やファイルの管理にも課題があることが報告されています。
回答自治体の95.5%が文書・ファイル管理に何らかの課題を感じていました。
「目的のファイルが見つからない、探すのに時間がかかる」が65.4%、「命名規則やフォルダ構成のルールがない」が63.9%でした。
さらに、文書・データ管理の改善を94.7%が重要と認識する一方、ファイルサーバーの整理や管理方法の見直しについて、60.9%が具体的な着手に至っていませんでした。
データ整備に関しては、「重要だが、人手・時間が足りず手が回らない」という回答が54.1%でした。
ここから見えてくるのは、操作研修だけでは解決しにくい問題です。
行政組織では、職員が異動しても情報や業務の経緯を引き継げることが重要です。
ところが、必要な資料を探せない、最新版がわからない、利用ルールが統一されていないといった状態では、生成AIを導入しても十分に活用できない可能性があります。
表1|行政DXにおける個人と組織の課題
| 職員個人に関わる課題 | 行政組織として整える条件 |
|---|---|
| AIの操作・活用スキル | 研修と相談・支援体制 |
| AIの出力を評価する能力 | 確認・承認の手順 |
| 情報管理に関する知識 | 利用ルールと権限管理 |
| 業務に応用する能力 | データ整備と業務設計 |
職員の知識や判断力を高めることは必要です。
同時に、データ管理、利用ルール、確認手順、相談体制など、組織としての環境を整えることも欠かせません。
「リテラシー不足」という一つの言葉で問題をまとめてしまうと、本当に改善すべき場所が見えにくくなるのではないでしょうか。
4.行政のDXは自治会とどう関係するのか
ここからは、調査結果を踏まえた自治会DX研究室としての考察です。
今回の調査は自治体の行政組織を対象としたものであり、自治会役員の能力や自治会のDX実態を示すものではありません。
その違いを踏まえて、行政と自治会の関係を考えてみます。
自治会は、行政からの通知や防災情報を受け取り、地域に伝えることがあります。また、補助金の申請や活動報告など、行政との手続きが必要になる場合もあります。
こうした業務では、行政側と自治会側の両方に作業が発生します。
仮に行政が資料を電子化しても、自治会側で使いにくい形式で提供されれば、再入力や印刷などの作業が残るかもしれません。
一方、自治会が電子回覧板を導入しても、行政からの情報提供が紙に限られていれば、役員が改めて電子データにする作業が必要になる場合があります。
つまり、どちらか一方のデジタル化だけでは、業務全体が改善されるとは限らないのです。
ここで必要なのは、行政と自治会が同じシステムを使うことではありません。
それぞれの役割や事情を尊重しながら、情報や手続きの受け渡しをどう改善するかを考えることです。
自治体DXと自治会DXは、組織としては別々の取り組みです。
しかし、その接点に目を向けることで、双方の改善につながる可能性があります。
5.連携・協働によるDXをどう進めるか
行政と自治会のDXを考えるうえで、重要なのは一方向の支援だけではありません。
自治体は、行政サービスや情報提供、手続きの仕組みを改善する役割を担います。
一方、自治会は、地域活動の実態や住民の利用環境、手続き上の負担などを行政に伝えることができます。
その情報を基に、双方が改善方法を考える。
こうした関係が、連携・協働によるDXの基本になるのではないでしょうか。
たとえば、自治体が自治会向けのオンライン申請を導入する場合を考えてみます。
行政側にとっては、申請書の受付や確認が効率化されるかもしれません。
しかし、自治会側では入力項目が多くなったり、添付資料の作成に時間がかかったりする可能性もあります。
そこで、自治会役員が実際に利用し、操作のしやすさや作業時間を確認する。その結果を行政に伝え、改善につなげる。
このような取り組みであれば、行政の効率化と自治会の負担軽減を、両方から評価できます。
もちろん、自治会にはデジタル機器を利用しない住民もいます。
表2|行政と自治会の連携・協働を考える視点
| 行政側の改善対象 | 自治会側で確認したい変化 |
| 通知・資料の電子化 | 配布・再入力作業の変化 |
| 申請・報告のオンライン化 | 手続き時間・負担の変化 |
| 防災・地域情報の提供 | 情報の受け取りやすさ |
| 問い合わせ対応 | 確認・回答までの時間 |
| 行政と地域の情報共有 | 連絡漏れ・重複作業の変化 |
情報が届くこと、手続きが利用できること、公平性が保たれることも重要です。
デジタル化を進める際には、行政と自治会がそれぞれの立場から、こうした点を確認する必要があります。
6.DXの成果を、双方の変化から確かめる
今回の調査をきっかけに、もう一つ考えたいことがあります。
それは、DXの成果を何によって判断するかという問題です。
生成AIを導入した自治体が増えたことは、普及状況を示す重要な情報です。
しかし、導入した数だけでは、行政業務がどれだけ改善されたかはわかりません。
文書作成や確認にかかる時間は短くなったのか。
必要な情報を探しやすくなったのか。
住民への情報提供は改善されたのか。
こうした変化を確認することが必要です。
さらに、自治会との連携を考える場合には、行政内部の成果だけでなく、自治会側の変化にも目を向けたいと思います。
行政の手続きが電子化されたことで、自治会役員の作業は減ったのか。
情報の受け取りやすさは改善されたのか。
反対に、新たな確認作業や入力作業が増えていないか。
行政と自治会がそれぞれの立場から成果を確認し、その結果を共有する。
そうすることで、単なるシステム導入ではなく、地域全体の業務改善につながる可能性があります。
ここで大切なのは、行政と自治会の成果を同じ数字で測ろうとしないことです。
行政には行政の役割と評価指標があり、自治会には自治会の活動目的と評価の視点があります。
その違いを尊重しながら、両者の接点で何が改善されたかを確かめることが重要です。
おわりに|AI時代の行政と地域のこれから
今回の調査で、私が最も関心を持ったのは、82.7%という数字そのものではありませんでした。
むしろ、「リテラシー不足」という言葉の中に、何が含まれているのかということでした。
職員の知識や経験の不足。
利用ルールやデータ管理の不備。
改善に取り組むための時間や支援体制の不足。
これらは関連していますが、同じ問題ではありません。
それぞれを区別しなければ、改善すべき場所も見えにくくなります。
そして、自治会DX研究室として今回得られたもう一つの視点があります。
行政のDXを、行政内部の効率化だけで終わらせないことです。
行政の変化が地域にどのような効果をもたらしたのか。
そして、地域からの声が行政の改善にどのようにつながったのか。
自治体と自治会は異なる組織だからこそ、それぞれの立場を尊重し、連携・協働によって改善を進める意味があります。
「何を導入したか」から、「何が変わったか」へ。
さらに、「行政と地域の双方に、どのような変化が生まれたか」へ。
この視点を共有することが、AI時代の自治体DXと自治会DXを考えるうえで、新しい物差しになるのではないでしょうか。
今回の調査は、行政の生成AI活用の課題を示すとともに、自治会DXを行政との連携・協働という視点から考え直すきっかけを与えてくれました。
出典・参考資料
自治体DX推進協議会|文書・データ管理改善の課題(2026年8月2日)
自治体DX推進協議会|生成AIの活用状況と課題(2026年7月29日)
自治体DX推進協議会|文書・ファイル管理の実態(2026年7月31日)
※本記事の調査数値は、地方公共団体を対象としたものです。自治会に関する記述は、行政との連携・協働に着目したOGURA AI Labの考察・提案であり、自治会の実態を調査した結果ではありません。

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