――320社の調査から見えた課題と、これからの管理職の役割
生成AIの普及によって、私たちの仕事の進め方は変わり始めています。
文章の作成、情報の整理、資料の構成、企画立案の支援など、これまで人が時間をかけて行っていた作業の一部を、AIが担えるようになりました。
では、仕事の進め方が変わるとき、社員に求められる能力や人材育成のあり方は、どのように変わるのでしょうか。
企業は、こうした変化にどこまで対応できているのでしょうか。
2026年10月7日、産業能率大学総合研究所とHR総研が共同で実施した「生成AIと人材育成に関する人事実態調査」が公表されました。
私はかつて産業能率大学総合研究所に在籍し、企業の教育・研修や経営管理に関わる仕事に携わってきました。
現在はOGURA AI Labで、生成AIの活用や業務自動化を実践しています。
今回は、かつて人材育成に携わった立場と、現在AIを実践する立場の両方から、この調査結果を読み解きます。
そして、生成AI時代に求められる人材育成と管理職の役割について考えてみたいと思います。
1.約8割が人材育成への影響を認識している
今回の調査は、日本企業・組織の人事施策や人材育成に関わる担当者・責任者を対象に実施されました。
調査期間は2026年5月22日から6月23日まで。回答の重複を整理し、320社の回答が集計されています。
まず注目したいのは、生成AIの普及が人材育成に影響すると考えている回答が、79.1%に達したことです。
その内訳は、「大きく影響する」が40.3%、「やや影響する」が38.8%でした。
さらに、能力・スキル、育成方針・体系、育成内容・方法、マネジメント、制度・運用という五つのテーマについて、見直しが必要と考える割合は56.6~70.3%となっています。
ところが、実際に見直しや対応を行っている割合は、15.0~19.4%にとどまっています。
出典:産業能率大学総合研究所・HR総研「生成AIと人材育成に関する人事実態調査」(2026年10月7日)

この結果から、企業では変化の必要性が広く認識されているものの、具体的な施策への展開が十分に進んでいない状況がうかがえます。
では、なぜ見直しが進まないのでしょうか。
2.見直しが進まない理由は、予算や時間の不足だけではない
調査では、人材育成の見直しが進みにくい理由についても尋ねています。
最も多かったのは、「全社として生成AI活用の方向性が明確ではない」で48.3%でした。
次いで、「生成AIの活用によって、仕事や役割がどのように変わるか整理できていない」が46.9%となっています。
一方、「必要な時間や工数を確保できていない」は20.8%、「必要な予算を確保できていない」は17.9%でした。

この結果は、人材育成を考えるうえで重要な問題を示しているように思います。
新しい技術が登場すると、企業ではまず、その技術の使い方を学ぶ研修を考えがちです。
もちろん、生成AIの基本操作や安全な利用方法を学ぶことは重要です。
しかし、その前に考えるべきことがあるのではないでしょうか。
それは、生成AIによって、仕事そのものがどう変わるのかという問題です。
例えば、AIを利用すれば、報告書や企画書を短時間で作成できるようになります。
しかし、文章を速く作れることと、仕事の目的を理解して適切な判断ができることは同じではありません。
AIが作成を支援するのであれば、人間は何を考え、何を判断し、何に責任を持つのでしょうか。
そこを整理せずに研修だけを増やしても、組織が本当に必要とする能力を育成できるとは限りません。
今回の調査結果は、人材育成を見直す前提として、仕事や役割の再検討が必要であることを示唆しています。
3.生成AI時代の人材育成で、管理職が重要な理由
今回の調査で、もう一つ注目したい結果があります。
生成AIの普及に伴い、人材育成上の課題が大きいと感じる階層として、最も多く挙げられたのは「管理職」で59.4%でした。
続いて「中堅社員」が53.1%、「経営層」が39.7%となっています。
一方、生成AIに関する周知・研修の実施状況を見ると、基礎知識に関する研修は41.2%、利用ルールや留意点に関する研修は40.9%でした。
これに対し、管理職向けの生成AI活用に関する研修は7.7%にとどまっています。

なお、これらは異なる設問の結果であり、単純に差を計算して評価することはできません。
それでも、管理職の育成課題が強く認識される一方、管理職向けの具体的な研修は限定的であることがわかります。
私は、この結果に特に関心を持ちました。
従来から管理職には、目標設定、仕事の割り当て、進捗管理、問題解決、部下の指導・育成など、多くの役割が求められてきました。
生成AIが仕事の一部を担うようになると、管理職には新たな課題が加わります。
AIに任せる仕事と、人間が判断すべき仕事を見極めること。
AIによって作成された成果物の妥当性を確認すること。
さらに、AIを活用しながら、部下自身の思考力や判断力を育てることです。
管理職自身がAIを使えることも大切ですが、それ以上に、AIを活用する職場で、人と仕事をどのようにマネジメントするかが問われるようになると考えます。
4.AIが作成した成果物から、部下の能力をどう評価するのか
新人・若手社員の育成についても、興味深い結果が報告されています。
「本人がどこまで自分で考えたのかを確認しにくい」という懸念は76.2%でした。
また、「上司・先輩によってAI活用の指導にばらつきが出やすい」が69.5%、「AIを用いた成果物の内容や妥当性を見極めにくい」が68.1%となっています。
この問題は、今後の人材育成を考えるうえで避けて通れないでしょう。
例えば、若手社員が生成AIを使って優れた企画書を作成したとします。
その企画書の完成度が高いからといって、本人が問題を十分に理解しているとは限りません。
一方、AIを適切に活用し、必要な情報を調べ、複数の選択肢を比較しながら、優れた判断をしている場合もあるでしょう。
重要なのは、AIを利用したかどうかだけで評価することではありません。
仕事の目的をどこまで理解しているのか。
何をAIに任せ、何を自分で考えたのか。
どのような根拠で結論を選んだのか。
そして、結果が適切であることをどのように確認したのか。
こうした思考と判断の過程を見ることが、今後の指導や評価では重要になると考えられます。
5.OGURA AI Labの考察――人材育成は、仕事の再設計から始まる
私は、今回の調査結果を読みながら、かつて企業の教育・研修や経営管理に携わっていたころのことを思い出しました。
人材育成を考える際には、まず組織の目的と仕事の内容を明らかにし、期待する成果と必要な能力を整理することが重要です。
そのうえで、教育・訓練の内容や方法を考えます。
こうした基本的な考え方は、生成AI時代にも変わらないのではないでしょうか。
むしろ、仕事の進め方が大きく変わろうとしている今、その重要性は一層高まっているように思います。
現在、OGURA AI Labでは、生成AIを利用したブログ制作やメール配信に関わる作業の自動化を試みています。
実際に取り組んでみると、AIの操作方法やシステムの接続だけでは、自動化の仕組みは完成しません。
どの仕事を自動化するのか。
どの情報を次の工程に引き渡すのか。
どこで人間が確認し、判断するのか。
そして、何をもって成果とするのか。
これらを事前に整理する必要があると感じました。
この経験から、以前のブログでは「AI自動化は、技術より先に仕事を考える」という問題を提起しました。
今回の調査結果は、人材育成についても同様の視点が重要であることを考えさせてくれます。
生成AIを使える社員を増やすことは必要です。
しかし、操作方法を学ぶだけでは、AIを活用して成果を生み出せる人材が育つとは限りません。
私は、これからの人材育成には、次のような考え方が必要ではないかと思います。
第一に、仕事の目的と求める成果を明確にすること。
第二に、AIが支援できる仕事と、人間が担うべき判断を整理すること。
第三に、その仕事を遂行するために必要な能力を見直すこと。
第四に、AIを活用した成果だけでなく、人間の思考力や判断力の成長を確認することです。
AIを使える人を育てることと、AIを活用して価値を生み出せる人を育てることは、同じではありません。
生成AI時代の人材育成は、この違いを明確にするところから始まるのではないでしょうか。
6.管理職の役割は、これからどう変わるのか
私は、生成AIの普及によって管理職の役割が軽くなるとは考えていません。
AIによって資料作成や情報整理が効率化されれば、管理職が従来担ってきた作業の一部は減少する可能性があります。
しかし、仕事の目的を明確にし、適切な目標を設定し、成果を評価し、部下の成長を支援する役割は残ります。
むしろ、AIによって成果物を短時間で作成できるようになるからこそ、何を成果として評価し、どのような能力を育成するかが重要になるでしょう。
目標による管理という観点から考えても、単に作業の実施状況を確認するのではなく、目的と成果を共有し、達成の過程を支援することが求められます。
AIは管理職の仕事を支援する有力な道具になり得ます。
しかし、部下に何を期待し、どのように成長を支援するのかという判断まで、AIに委ねることはできません。
これからの管理職には、AIを使う能力だけでなく、AIを活用する職場を設計し、人間の能力を引き出す力が求められるのではないでしょうか。
おわりに――生成AI時代に、人をどう育てるのか
今回の調査は、企業が生成AIの普及による人材育成の変化を認識しながら、具体的な見直しには十分に踏み出せていない状況を示しています。
この結果を、単に企業の対応が遅れているという指摘だけで終わらせるべきではないでしょう。
仕事が変わるとき、人をどう育てるのか。
これまで培ってきた能力のうち、何を大切に残し、何を新たに身につけるべきなのか。
そして、管理職はどのような役割を担うべきなのか。
これらを考えることが、生成AI時代の人材育成を見直す出発点になると思います。
生成AI時代の人材育成は、AIの操作方法を教えることだけではありません。AIによって変わる仕事を見据え、人間の能力をどう育て、生かしていくかを考えることです。
OGURA AI Labでは、これからも生成AIの技術そのものだけでなく、それが仕事や人間の能力にどのような変化をもたらすのかを考えていきたいと思います。
調査報告書のご案内
本記事は、産業能率大学総合研究所とHR総研(ProFuture株式会社)が共同で実施した「生成AIと人材育成に関する人事実態調査」(2026年10月7日公表)の公開情報をもとに構成しました。
調査結果の概要は、以下の公式ページから確認できます。
詳しい調査結果や提言を収録した報告書全文については、次のページから入手を申し込むことができます。
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※報告書全文の入手には、所定のフォームへの入力が必要です。
※本文中の調査結果は公表資料に基づき、考察部分はOGURA AI Lab独自の見解です。

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