――仕事から人間関係・恋愛・悩みへ広がる生成AI
ChatGPTなどの生成AIを、皆さんは何に使っているでしょうか。
調べ物をする。文章を書く。メールを整える。仕事のアイデアを考える。
こうした使い方は、かなり身近になってきました。
ところが今、もう一つ興味深い使い方が広がっています。
人間関係や自分の悩みをAIに相談することです。
「このメールは、相手にどう受け取られるだろう」
「返信が来ない。私は考えすぎているのだろうか」
「上司の言葉に腹が立った。でも別の見方はないだろうか」
「家族とうまく話せない。自分の考えを一度整理したい」
「友人には言いにくい悩みだけれど、AIなら話せるかもしれない」
本当に、人はこんなことまでAIに相談し始めているのでしょうか。
調べてみると、これは単なる想像ではありませんでした。
1.AIが「相談相手」になり始めている
2026年、内閣府・消費者委員会は、国内の10代から70代以上の生成AI利用者を対象に利用実態を調査しました。
調査全体の有効回答者は1,442人。そのうち、対話型AIを利用している1,038人に「気軽に相談できる相手」を尋ねています。
出典:内閣府 消費者委員会「生成AI利用者の利用実態に関するアンケート結果」2026年3月

「最も気軽に相談できる相手」として選ばれた割合を見ると、図1の対話型AIは**11.8%**となっています。
つまり、調査対象となった対話型AI利用者の中では、AIを「最も気軽に相談できる相手」として1位に挙げる人が11.8%いたのです。
もちろん、日本人全体の11.8%という意味ではありません。
「対話型AIをすでに利用している人」を対象とした結果です。
しかし、AIが単なる検索や文章作成の道具ではなく、「相談」という領域に入り始めていることを示す興味深いデータです。
2.なぜ人はAIに相談するのか
では、なぜAIなのでしょうか。
同じ内閣府調査では、対話型AIに質問する理由も尋ねています。

この数字から、AIの便利さには少なくとも三つの側面があることが分かります。
速い。
いつでも聞ける。
そして、
人には聞きにくいことも聞ける。
この三つ目が、人間関係を考えるうえで重要です。
3.恋愛・家族・友人の相談になると、数字が大きく変わる
さらに興味深い結果があります。
「人には相談しづらい内容だからAIに聞く」と答えた割合を、相談内容別に見ると、
となっています。

これは今回の記事で、私が最も興味深いと感じた数字です。
全体では23.7%だった「人には相談しづらい」という理由が、人間関係の相談になると大きく上昇しています。
なぜでしょうか。
恋愛の悩みを友人に話せば、相手に知られるかもしれない。
家族の問題は、知人には話しにくい。
友人とのトラブルを、別の友人に相談することにもためらいがある。
AIには人間関係上の「しがらみ」がありません。
だから、
人には言いにくい。しかし、自分一人で抱えているのもつらい。
その間に、対話型AIという新しい選択肢が入り始めているのかもしれません。
ただし、ここで非常に重要な問題が出てきます。
4.AIは本当に「相手の気持ち」が分かるのか
例えば、
「メールを送ってから5日間、返信がありません。相手は私のことをどう思っているのでしょうか」
とAIに聞いたとします。
AIは、
「距離を置きたい可能性があります」
「忙しくて返信できない可能性があります」
「どう返信するか迷っている可能性もあります」
などと答えるかもしれません。
文章として読むと、とても説得力があります。
しかし、AIは相手本人に聞いたわけではありません。
AIが確認できる事実は、
「5日間返信がない」
ということだけです。
一方、
「嫌われたのではないか」
は相談者の解釈です。
ここを混同すると、AIのもっともらしい文章が、いつの間にか「相手の心理についての事実」に見えてしまいます。
5.AIに心を読ませるのではなく、「事実」と「解釈」を分けてもらう
そこで、AIへの質問を変えてみます。
質問A
「返信がありません。相手は私を嫌っているのでしょうか」
ではなく、
質問B
「メールを送って5日間返信がありません。相手の心理を断定せず、①確認できる事実、②私の解釈、③ほかに考えられる可能性、④現時点では分からないこと、に分けて整理してください」
と聞いてみます。
すると、AIの役割が変わります。
相手の心を当てるAIから、自分の考えを整理するAIへ。
ここが、このシリーズで最も大切にしたい考え方です。

出来事
↓
事実を確認する
↓
自分の解釈・感情を分ける
↓
AIに別の見方を出してもらう
↓
複数の行動案を比較する
↓
最後は人間が判断する
AIに「答え」を決めてもらうのではありません。
考える材料を増やしてもらう。
6.海外でも「感情的な支え」にAIを使う人がいる
米国のPew Research Centerは2026年2月、米国成人5,119人を対象にAIチャットボットの利用について調査しています。
AIチャットボットを使った経験のある用途を見ると、
※仕事上のタスクは就業者を対象。
AIの中心用途は、依然として情報検索や仕事です。
しかし、米国成人の10%が「感情的な支え・助言」にAIチャットボットを使ったことがあると答えています。

7.若い年代では
『感情的な支え』に使う割合が高い
Pew Research Centerの同じ調査を年代別に見ると、さらに違いがあります。

18~29歳では5人に1人です。
ただし、この結果から「若い人ほどAIに依存している」と結論づけることはできません。
この調査が示しているのは、あくまでAIチャットボットを感情的な支え・助言に使った経験の割合です。
「利用」と「依存」は別の問題として考える必要があります。
8.便利だからこそ、危険性も考える
AIは疲れません。
夜中でも答えます。
同じ話を何度繰り返しても返事をします。
そして、人間のように露骨に「そんなことはもう聞きたくない」とは言いません。
これは大きな利点です。
一方で、そこには危険もあります。
OpenAIとMIT Media Labは2025年、AIとの感情的な関わりについて、約4,000万件のChatGPT上のやり取りを自動分析する研究と、約1,000人を対象に4週間実施したランダム化比較試験を公表しました。
研究では、現実のChatGPT利用全体で感情的な関わりを示す利用は少数だった一方、AIの使い方、利用時間、利用者自身の特徴などによって社会的・感情的な結果が異なることが示されています。
特に長時間の利用や、AIを友人のように捉える傾向などについて、慎重に考える必要性が指摘されています。
日本でも内閣府・消費者委員会は、2026年6月の専門調査会資料で、対話型AIには**「対人関係に類似した心理的依存」**という論点があるとしています。
つまり、
AIに相談できることと、AIの答えを信じてよいことは同じではありません。
9.では、「AIで人を理解する技術」とは何なのか
私は、このブログに「AIで人を理解する技術」というカテゴリーを作りました。
しかし、この言葉を、
「AIなら人の心が読める」
「AIに聞けば相手の本心が分かる」
という意味にはしたくありません。
むしろ逆です。
人間は思い込みます。
不安なときには悪い方向に考えます。
怒っているときには、相手の言葉を攻撃として受け取りやすくなることもあります。
自分に都合のいい情報だけを集めてしまうこともあります。
そしてAIにも、間違い、迎合、もっともらしい推測があります。
だからこそ、
人間の思い込みとAIの限界。その両方を理解したうえで、AIを「考える補助具」として使えないだろうか。
これが、このカテゴリーで考えたいテーマです。
10.これから、このブログで試してみたいこと
例えば、同じ人間関係の問題をAIに相談するとき、
認知心理学の考え方を使ったら、どう見えるのか。
アドラー心理学の「課題の分離」を参考にしたら、どう整理できるのか。
交流分析という視点を使ったら、会話のすれ違いはどう見えるのか。
愛着理論を参考にする場合、どこまでなら有益で、どこから「相手を勝手に診断する」ことになってしまうのか。
怒りが収まらないとき、アンガーマネジメントとAIを組み合わせると役立つのか。
カスタマーハラスメントを受けたとき、AIは事実整理、記録、対応文案作成のどこまでを補助できるのか。
職場、夫婦、家族、友人、恋愛、地域活動。
人と人が関われば、そこには必ず「相手をどう理解するか」という問題が生まれます。
そこでAIをどう使えばよいのか。
実際に試してみたいと思います。
11.このシリーズで守る5つの原則
最後に、「AIで人を理解する技術」で守る原則を決めておきます。
1.AIに相手の心を断定させない。
2.AIに人格や心理状態を安易に診断させない。
3.事実・解釈・感情・推測をできるだけ分ける。
4.一つの答えではなく、複数の見方をAIに求める。
5.最終的に判断し、行動するのは人間である。
AIに人間を理解させるのではありません。
AIを使って、私たち自身が人間をもう少し丁寧に考えてみる。
それが、この「AIで人を理解する技術」で試してみたいことです。
次回
「AIは人の気持ちを本当に理解できるのか」
AIはなぜ、まるで私たちの気持ちを理解しているような文章を書けるのでしょうか。
そして、その答えを私たちはどこまで信じてよいのでしょうか。
次回は、「AIが人を理解する」とはどういうことなのか、その入口から考えてみます。

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