2026年、全国の行政事例から見える地域コミュニティDXの現在地
自治会DXという言葉を聞くと、「紙の回覧板をスマートフォンに置き換えること」と考えがちです。
しかし、2026年の自治体の取り組みを見ると、その姿は少し変わってきています。
電子回覧板だけでなく、自治会費のデジタル徴収、行事の出欠確認、アンケート、防災時の安否確認などへ用途が広がっています。
背景には、自治会・町内会が抱える担い手不足や役員負担という、より根本的な問題があります。
今回は、総務省の政策資料と各自治体が公表している事例をもとに、「自治会DXはいまどこまで進んでいるのか」を整理します。
1.国は自治会DXを「持続可能性」の問題として捉えている
自治会DXは、単に各自治体が独自に始めた流行ではありません。
総務省は2021年度から「地域コミュニティに関する研究会」を開催し、地域活動のデジタル化、自治会等の活動の持続可能性向上、地域コミュニティの多様な主体間の連携などについて検討してきました。
その後、自治会等で地域交流アプリを活用する実証事業を行い、2024年3月には成果報告書、2025年3月には「自治会等における地域活動のデジタル化ハンドブック」を公表しています。
国の議論では、自治会の加入率低下や担い手不足などを背景として、地域活動の負担軽減や持続可能性を高めるための手段としてデジタル化が位置づけられています。
つまり自治会DXの本質は、
「紙をなくすこと」ではなく、「地域活動をどう持続可能にするか」
にあると考えるべきでしょう。
2.東京都――回覧板から「会費徴収」へ
東京都では、2026年度の「町会・自治会デジタル化推進助成」として、町会・自治会が行うデジタル化を支援しています。
対象には、スマートフォンなどのアプリを利用して住民へ情報を届ける電子回覧板があります。
さらに注目したいのが、二次元コード決済やオンラインのクレジットカード決済などを利用した町会・自治会費徴収のデジタル化です。
ここから見えてくるのは、自治会DXの対象が「情報伝達」から「自治会運営の実務」へ広がっていることです。
自治会費の集金は、訪問、現金の受け渡し、管理、未納確認など、役員側にも住民側にも負担があります。
DXを「電子回覧板」だけで考えないことが重要になってきています。
3.市川市――普段使っているLINEを入口にする
千葉県市川市では、自治会の回覧板や掲示板などで案内している市・自治会からのお知らせを、市川市公式LINEを通じて受け取れる「自治会デジタル回覧板」を提供しています。
自治会用、自治会員用の操作マニュアルも公開されています。
この方式から読み取れる重要なポイントがあります。
DXでは、「高機能な新しいシステムを導入すること」だけが解決策ではありません。
住民がすでに日常生活で利用しているサービスを入口にすることで、利用開始時のハードルを下げる方法もあります。
自治会DXでは、システムの機能だけでなく、
「住民が無理なく使えるか」
という視点が非常に重要です。
4.各務原市――電子回覧板が「双方向の地域基盤」へ
岐阜県各務原市では、電子回覧板アプリを導入する自治会への支援を行っています。
同市が紹介している電子回覧板アプリ「結ネット」では、単に情報を見るだけでなく、
・自治会行事や会議の案内
・工事や通行止めなどの地域情報
・会議や行事の出欠確認
・アンケートへの回答・集計
・市の広報紙の閲覧
・災害時の安否確認
などにも利用できます。
ここまで来ると、「電子回覧板」という名称だけでは実態を十分に表していません。
一方向に情報を伝える仕組みから、
住民と自治会をつなぐ双方向の地域情報基盤
へ発展しつつあると見ることができます。
5.豊川市――実証実験から本格運用へ
愛知県豊川市では、電子回覧板「結ネット」について実証実験を行った後、本格運用へ移行しています。
市が公表している情報によれば、2026年9月4日時点で、59団体(76町内会)、約12,600世帯が利用しています。
この事例が示しているのは、「システムを導入したかどうか」だけを成果にしてはいけないということです。
まず小さく試す。
効果と問題を確認する。
改善する。
そのうえで対象を広げる。
自治会DXにも、このような段階的な導入方法が重要だと考えられます。
6.デジタル化しても「紙を捨てない」という選択
一方で、DXには注意すべき問題もあります。
スマートフォンを持っていない人、アプリの操作に慣れていない人も地域にはいます。
福井市の電子回覧板「タウンデジボ」は、従来の紙の回覧板に加えて、スマートフォンやタブレットでも情報を閲覧できる仕組みです。
また、多摩市でもインターネット環境がない住民への情報提供手段として、従来の回覧板・掲示板を残しながらデジタル情報を提供しています。
つまり、
デジタル化=紙の廃止
ではありません。
さらに、紙とデジタルを併用すると、場合によっては自治会役員の仕事が二重になり、かえって負担が増える可能性もあります。
「デジタルにすれば必ず効率化する」と考えるのではなく、実際の業務全体を見て判断する必要があります。
7.全国行政の動向から見える「自治会DXの5つの傾向」
ここまで見てきた国の政策資料と複数自治体の事例を整理すると、少なくとも次の5つの方向性が見えてきます。
これは「全国すべての自治体が同じ方向へ進んでいる」という意味ではありません。
今回確認した国の政策と複数の自治体事例から読み取れる、自治会DXの政策・実装上の傾向として整理したものです。
①「情報の電子化」から「自治会運営の効率化」へ
初期の自治会DXでは電子回覧板などの情報伝達が目立ちました。
現在は会費徴収、出欠確認、アンケート集計など、自治会の実務そのものへ対象が広がっています。
② 一方向の連絡から「双方向」へ
住民が情報を見るだけでなく、回答する、出欠を知らせる、アンケートに答える、安否を知らせるなど、双方向のコミュニケーションへ発展しています。
③ DXの目的が「省力化」だけではなく「持続可能性」へ
自治会の担い手不足や加入率低下などを背景として、地域活動をこれからも維持していくための一つの手段としてデジタル化が検討されています。
④ 一気に全面移行するのではなく「実証→評価→展開」へ
豊川市のように、まず実証実験を行い、効果や課題を確認してから本格運用へ進む事例があります。
自治会DXでも、小さく始めて検証する考え方が重要です。
⑤ デジタルだけにしない「包摂」が課題になる
紙とデジタルをどう併用するのか。
スマートフォンに不慣れな住民をどう支援するのか。
デジタル化によって、新たに「情報を受け取れない人」を生み出してしまえば、本来の地域コミュニティの目的と矛盾します。
8.では、小さな自治会は何から始めればいいのか
ここからは、OGURA AI Labとしての考察です。
最初にアプリやシステムを選ぶ必要はないと思います。
まず、
現在の仕事
↓
困っていること
↓
デジタル化できる部分
↓
人間が残す仕事
という順番で考えてみます。
例えば、
「回覧に時間がかかる」
→ 情報伝達の一部を電子化できないか。
「行事の出欠確認が大変」
→ オンライン回答にできないか。
「自治会費の集金が負担」
→ デジタル決済を選択肢にできないか。
「災害時の安否確認に時間がかかる」
→ 双方向の連絡手段を整備できないか。
という考え方です。
これは「DXを導入する」のではありません。
地域の問題を一つ選び、それを解決するためにデジタルを使う。
この順番が大切だと考えます。
9.そして次の段階は「自治会×生成AI」なのか
電子回覧板やLINEは、主として情報を届けたり、住民から回答を受け取ったりするための仕組みです。
一方、生成AIは、その前後にある仕事を支援できる可能性があります。
例えば、
・回覧文書の下書き
・会議資料の整理
・議事録の要約
・アンケート結果の整理
・行事案内文の作成
・住民向け文書を分かりやすく書き直す
といった仕事です。
ただし、ここは注意が必要です。
電子回覧板などの事例と同じレベルで、「自治会で生成AI活用が普及している」と現時点で断定することはできません。
自治体行政そのものでは生成AI活用が進んでいますが、自治会の日常業務で生成AIがどこまで実用化されているかは、別に検証する必要があります。
だからこそ、ここをOGURA AI Lab「自治会DX研究室」の次の実践テーマにする価値があると考えています。
便利そうだから使うのではなく、
小さく試す
↓
人間が確認する
↓
効果と問題を測る
↓
改善する
という方法です。
まとめ――自治会DXの主語は「デジタル」ではなく「地域」である
今回確認した国の政策と自治体の事例からは、自治会DXが電子回覧板だけにとどまらず、会費徴収、出欠確認、アンケート、防災・安否確認などへ広がっている様子が見えてきます。
一方で、紙との併用、デジタルに不慣れな住民への対応、導入後の運用負担といった問題も残っています。
したがって、自治会DXを、
「どのアプリを導入するか」
から始めるべきではないでしょう。
地域にはどんな問題があるのか。
その仕事は本当に必要なのか。
デジタルに任せる部分はどこか。
そして、人間が担い続けるべき部分はどこか。
この順番で考える。
自治会DXとは、最新技術を導入する競争ではなく、
地域活動をこれからも続けられる形へ再設計すること
ではないでしょうか。
OGURA AI Lab「自治会DX研究室」では、全国の事例を紹介するだけでなく、これから「自治会×生成AI」についても、実際の自治会業務を想定しながら、一つずつ検証していきます。
参考資料・出典
本記事は、国・地方自治体が公表している一次資料を中心に、2026年9月時点で確認できる情報をもとに作成しました。
国・政策資料
総務省「地域コミュニティに関する研究会・地域活動のデジタル化関連資料」
自治会・町内会が直面する担い手不足や地域コミュニティの持続可能性、地域活動のデジタル化について検討してきた国の政策資料。本記事では、自治会DXを単なる「紙からデジタルへの置き換え」ではなく、地域活動の持続可能性という観点から考える基礎資料としています。
※総務省が公表している「自治会等における地域活動のデジタル化ハンドブック」および関連する実証事業資料を参照。
東京都
東京都生活文化局「町会・自治会デジタル化推進助成」
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/chiiki_tabunka/chiiki_katsudo/chiikiryoku/0000002500
電子回覧板による情報伝達・共有に加え、QRコード決済等を活用した町会費徴収も支援対象としています。2026年度は対象経費の10分の10、最長12か月を助成。2026年9月4日に追加募集が公表されています。
千葉県市川市
市川市「自治会デジタル回覧板」
https://www.city.ichikawa.lg.jp/page/77069.html
自治会の回覧板や掲示板などで案内している市・自治会からのお知らせを、市川市公式LINEを通じて受け取れる仕組みです。自治会用・自治会員用の操作マニュアルも公開されています。2026年9月16日更新。
岐阜県各務原市
各務原市「自治会活動デジタル化支援事業」
https://www.city.kakamigahara.lg.jp/life/shiminsanka/1022511.html
自治会役員の高齢化や担い手不足、紙回覧の仕分け・情報伝達に時間がかかるといった課題を背景に、電子回覧板アプリ「結ネット」の導入を支援しています。2026年9月18日更新。
愛知県豊川市
豊川市「町内会電子回覧板『結ネット』の本格運用を開始しました」
豊川市では2021年7月から2023年3月まで、市内23団体・約4,600世帯の協力を得て実証実験を行い、2023年4月から本格運用へ移行しました。
2026年9月4日現在、59団体(76町内会)、約12,600世帯が「結ネット」を活用しています。
電子回覧だけでなく、行事の出欠、意見集約、災害時の安否確認などにも活用できる事例として参照しました。
福井県福井市
福井市「電子回覧板『タウンデジボ』を運用しています」
https://www.city.fukui.lg.jp/kurasi/mati/jiti/digital-board.html
自治会の負担軽減と情報共有の迅速化を目的として運用。スマートフォン・タブレットで市、地区、自治会からの情報を確認できます。
重要なのは、電子化後も「当面は紙配布や回覧板と併用する」と明記している点です。デジタル機器を持たない住民への情報提供を残す事例として参照しました。
東京都多摩市
多摩市「自治会・町会・管理組合への回覧・掲示文書」
https://www.city.tama.lg.jp/kenkofukushi/katsudo/jichikai/1003157.html
自治会などへ配布する回覧物・掲示物をWeb上でも提供しています。一方、インターネット環境がない住民への情報提供手段として従来の回覧板・掲示板も重要としており、紙と電子媒体の併用を続けています。
北海道札幌市
札幌市「町内会の電子回覧板導入の手引き」
https://www.city.sapporo.jp/shimin/shinko/chounaikai/kadaikaiketsu/sassi/denshikairanbandonyu.html
町内会が電子回覧板を導入するときの考え方やポイント、実際の町内会事例を整理した行政資料です。
札幌市ではさらに、町内会の担い手確保や役員負担軽減の手段としてデジタル化を位置づけ、2026年には町内会向けアプリを提供する民間事業者との連携も進めています。
本記事における「全国的傾向」について
本記事で整理した「自治会DXの5つの傾向」は、全国すべての自治会・自治体を対象にした統計調査から普及率を算出したものではありません。
国の政策資料と、東京都、市川市、各務原市、豊川市、福井市、多摩市、札幌市など複数自治体の公開資料を比較し、そこに共通して確認できる政策・実装上の方向性をOGURA AI Labが整理・考察したものです。
したがって、「全国の自治会がすべて同じ方向へ進んでいる」という意味ではありません。
今後も国・自治体の公開資料や実際の導入事例を継続して確認し、自治会DXの変化を追っていきます。
(資料確認:2026年9月30日)

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