――QC・IE・VE・MBOで答えはどこまで変わるのか【第2回】
前回の記事では、
「AIが何でも答える時代に、人間は何を学ぶのか」
ということを考えました。
私がそこで立てた仮説は、次のようなものでした。
同じAIを使っていても、人間が持っている知識や理論によって、AIに与える視点が変わり、結果として得られる答えも変わるのではないか。
例えば、私がかつて社会人教育の中で学び、伝えてきたQC、IE、VE、MBO。
こうした考え方をAIに与えたら、単に「この問題を解決してください」と頼む場合とは違う答えになるのでしょうか。
今回は実際に試してみます。
今回の実験
比較を分かりやすくするため、すべて同じ問題を使います。
設定したのは、次のような職場です。
共通の問題
ある会社の部門では、毎週多くの会議が開かれています。
10人程度が参加する定例会議が週に3回あり、それぞれ約1時間。
さらに、会議のための資料作成や事前確認にも時間がかかっています。
社員からは、
「会議が多くて、本来の仕事をする時間がない」
「同じような報告を何度もしている」
という声が出ています。
一方で管理者は、
「情報共有や進捗確認のため、会議は必要だ」
と考えています。
この職場の会議を改善するとしたら、どうすればよいか。
この一つの課題を、5通りでAIに考えさせてみます。
- 特定の管理技術を指定せずAIに聞く
- QCの考え方で考えさせる
- IEの考え方で考えさせる
- VEの考え方で考えさせる
- MBOの考え方で考えさせる
比較するのは、
①問題の捉え方
②原因の見方
③提案内容
④実行しやすさ
⑤人間に残る判断
の5項目です。
1 まず、AIだけに聞いてみる
最初は、特別な理論を指定しません。
AIには、おおむね次のように質問します。
「この職場では会議が多く、本来の業務時間が不足しています。会議を改善する方法を考えてください。」
すると、AIからは次のような改善策が出てきます。
- 会議の目的を明確にする
- アジェンダを事前に配布する
- 参加者を必要な人だけに絞る
- 60分の会議を30分に短縮する
- 報告事項はメールやチャットに移す
- 会議終了時に担当者と期限を決める
- 定例会議そのものを見直す
どれも現実的です。
すぐ実行できるものも多く、実務的な回答と言えるでしょう。
しかし、ここで一つ気づきます。
AIは「会議が多い」という問題に対して、主として、
「会議をどう効率化するか」
を考えています。
つまり、与えられた問題設定の範囲内で、改善策を広く提示しているのです。
2 QC+AIではどうなるか
次は、
「この問題をQC・品質管理の考え方から分析してください。すぐに対策を出すのではなく、まず現象と原因を分け、確認すべきデータ、考えられる原因、真因を確認する方法を示してください。」
と頼んでみます。
すると、考え方がかなり変わります。
AIはまず、
「会議が多い」という言葉だけでは問題を十分に定義できない
と考えます。
例えば、
- 会議時間は実際にどの程度増えているのか
- どの会議に時間がかかっているのか
- 参加者別ではどうか
- 会議の種類別ではどうか
- 同じ内容の報告がどれだけ重複しているのか
- 会議が多いことで、実際にどの業務に支障が出ているのか
などを確認しようとします。
そして、
「なぜ会議が増えたのか」
について、
情報共有の仕組みがない、
上司が口頭報告を求めている、
意思決定権限が不明確である、
会議でしか進捗確認できない、
過去の会議が慣習として残っている、
など、複数の原因仮説を挙げます。
ここでは、
「会議を減らす」ことより、「なぜ会議が多くなっているのか」を確かめる
ことが先になります。
品質管理における問題解決でも、問題を定義し、根本原因を診断し、そのうえで解決策を選び、結果を維持するという考え方が基本になります。ASQも、真因を確認しないまま対策を行えば、一時的な改善に終わる可能性があると説明しています。
QC+AIで特徴的だったこと
AIだけの場合は、
「どう改善するか」
から入りました。
QCを与えると、
「そもそも何が起きているのか。その原因は何か」
から考え始めます。
これは大きな違いです。
3 IE+AIではどうなるか
次は、
「この問題をIEの観点から分析してください。人、時間、情報、作業の流れ、待ち、重複、移動、手戻りなどに注目してください。」
と頼みます。
すると、今度は会議を一つの「作業工程」として見るようになります。
例えば、
資料を作る
↓
上司へ送る
↓
確認を待つ
↓
修正する
↓
会議で説明する
↓
質問される
↓
持ち帰る
↓
再度確認する
という流れです。
ここからAIは、
「1時間の会議」だけを見るのではなく、
会議の前後に発生している仕事まで含めて時間を考える必要がある
と指摘します。
例えば10人が1時間参加すれば、それだけで10人時です。
週3回なら30人時。
さらに一人30分ずつ資料を準備しているなら、準備時間も加わります。
すると問題は、
「会議時間が3時間」
ではなく、
組織全体で毎週何十時間もの工数を使っている業務
として見えてきます。
そして、
- 同じデータを何度も入力していないか
- 同じ報告を複数の会議で繰り返していないか
- 決裁待ちはないか
- 情報を探す時間が発生していないか
- 本当に全員が最初から最後まで参加する必要があるか
などを検討します。
解決策も、
「会議を30分にする」
だけではなく、
情報共有方法の一本化、
報告フォーマットの統一、
会議前の情報確認、
承認工程の見直し、
参加者別の必要時間の分析、
へ広がっていきます。
IE+AIで特徴的だったこと
ここでは問題が、
「会議」から「仕事の流れ」へ
変わりました。
同じ問題でも、見る対象そのものが変化したのです。
4 VE+AIではどうなるか
次は、
「この問題をVEの考え方で分析してください。会議という手段ではなく、会議が果たしている機能を明確にして、その機能を別の方法で実現できないか考えてください。」
と頼みます。
ここで、さらに大きな変化が起こります。
AIは、
「会議をどう改善するか」
という問いそのものを疑い始めます。
まず、
この会議は何のために存在しているのか。
例えば、
- 情報を共有する
- 進捗を確認する
- 問題を発見する
- 意思決定する
- 部門間を調整する
- 責任を確認する
などの機能に分けます。
ここで、
「情報を共有する」
だけなら、必ずしも10人が一時間集まる必要はありません。
共有システムや文書で代替できるかもしれません。
一方、
「複数部門で意思決定する」
という機能なら、集まって議論する意味があります。
すると、
残すべき会議と、別の方法に置き換えられる会議
を分けられるようになります。
つまり、
「会議を効率化する」
という改善から、
「会議という手段そのものを再設計する」
という発想へ進みました。
VE+AIで特徴的だったこと
VEを与えると、
「どうやるか」から「何のためにやるのか」へ
問いが一段上がります。
私は、この違いが特に興味深いと思いました。
5 MBO+AIではどうなるか
最後に、
「この問題をMBO、目標による管理の観点から考えてください。組織目標、部門目標、個人の役割、成果指標との関係から、会議の必要性を検討してください。」
と頼みます。
すると、今度は問題の焦点が、
会議そのものから、組織が何を達成しようとしているのか
へ移ります。
例えば、
この部門の目標は何か。
納期短縮なのか。
顧客対応力向上なのか。
品質改善なのか。
新製品開発なのか。
そして、それぞれの会議が、その目標達成にどのように貢献しているのかを確認します。
すると、
毎週開催されているから続けている会議
と、
目標達成のために本当に必要な会議
を区別できる可能性があります。
さらに、
「会議回数を減らす」
ことを目標にするのではなく、
例えば、
意思決定までの時間を短縮する
重要課題の未処理件数を減らす
担当者の集中作業時間を確保する
など、成果の側から指標を設定できます。
MBO+AIで特徴的だったこと
MBOでは、
「会議をどうするか」から「何を達成するための仕事なのか」へ
視点が広がりました。
5つの結果を比べてみる
ここまでを、最初に決めた5項目で整理してみます。
| 方法 | ①問題の捉え方 | ②原因の見方 | ③提案内容 | ④実行しやすさ | ⑤人間に残る判断 |
|---|---|---|---|---|---|
| AIだけ | 会議が多い | 一般的な非効率 | 時間短縮、人数削減、ツール活用 | 高い | どの案を採用するか |
| QC+AI | 問題の発生原因 | 真因・データ・ばらつき | 原因確認後の対策 | データ収集が必要 | 何を真因と認定するか |
| IE+AI | 仕事全体の流れ | 待ち・重複・手戻り・工数 | 工程・情報流の再設計 | 現場観察が必要 | どこを変えるか |
| VE+AI | 会議が果たす機能 | 手段と目的の不一致 | 機能を別手段で実現 | 発想転換が必要 | 必要機能を何と考えるか |
| MBO+AI | 目標と活動の関係 | 目標と行動のずれ | 成果から活動を再構成 | 組織目標の共有が必要 | 何を成果とするか |
この表を見て、私は一つのことに気づきました。
どれか一つだけが正解なのではありません。
それぞれ、違うところを見ています。
AIだけでは駄目だったのか
ここは誤解しないようにしたいところです。
今回の比較は、
「普通にAIに聞くのは駄目で、管理技術を使えば正しい」
という話ではありません。
普通にAIへ相談しても、すぐ使える案がたくさん出てきました。
問題が単純であれば、それだけで十分な場合もあるでしょう。
むしろAIの長所は、
短時間で多くの選択肢を出せること
です。
ただし今回分かったのは、
AIにどんな思考の枠組みを与えるかによって、問題を見る場所そのものが変わる
ということです。
面白かったのは「答え」より「問い」が変わったこと
今回の実験で、私が最も興味深いと思ったのはここでした。
管理技術を加えることで変わったのは、
単なる「答えの種類」ではありませんでした。
AIが立てる問いそのものが変わったのです。
AIだけなら、
「どうすれば会議を効率化できるか」。
QCなら、
「なぜ会議が増えているのか」。
IEなら、
「仕事はどのように流れているのか」。
VEなら、
「そもそも会議は何の機能を果たしているのか」。
MBOなら、
「何を達成するための活動なのか」。
同じ「会議が多い」という問題なのに、これほど入口が違います。
ここに、人間が理論や知識を持つ意味があるのではないでしょうか。
では全部をAIに任せればいいのではないか
ここで、さらに一つ疑問が生まれます。
AIはQCもIEもVEもMBOも知っています。
それなら、
「最適な管理技術をAI自身で選んで問題を解決してください」
と頼めばよいのではないでしょうか。
ある程度は可能でしょう。
しかし、今回考えてみて、私はそう簡単ではないと思いました。
なぜならAIは、その職場を実際には見ていないからです。
会議中に誰が発言しているのか。
なぜ部長がその会議を必要だと思っているのか。
数字には表れない部門間の事情は何か。
どの仕事が本当に負担になっているのか。
人間関係はどうなっているのか。
そして何より、
会社として何を大切にするのか。
こうしたことは、AIが一般論だけから決めることはできません。
2026年7月にLean Enterprise InstituteがAIによる問題解決を取り上げた際にも、一般的なプロンプトでは一般的な回答になりやすく、文脈や目的を明確に与える必要があるとしています。さらにAIとの問題解決をPDCAになぞらえ、「Check」と「Act」は主として人間側に残るという考え方も提示されています。
これは今回の実験ともよく一致します。
AIは「管理技術の先生」にもなれる
今回、もう一つ可能性を感じました。
QC、IE、VE、MBOを完全に理解していなければAIを使えない、ということではありません。
例えば、
「私はVEを詳しく知りません。この問題をVEで考えるために、まず私に必要な質問をしてください」
とAIに頼むこともできます。
あるいは、
「QCを使って原因を分析したいので、初心者でも進められる順番で案内してください」
と頼むこともできます。
するとAIは、
問題解決の道具であると同時に、管理技術を学ぶための支援者
にもなります。
ここに、従来の社会人教育とは違う新しい可能性があります。
かつてなら、QCを学び、IEを学び、VEを学んでから実践するという順番が一般的でした。
これからは、
実際の問題をAIと考えながら、必要になった理論をその場で学ぶ
という学習も増えていくのかもしれません。
しかし、知らないものは質問しにくい
一方で、ここには大きな問題もあります。
そもそもVEという考え方を知らなければ、
「VEで考えてみよう」
とは思いつきません。
QCを知らなければ、
「すぐ対策を出す前に、真因を確認しよう」
という発想を持たないかもしれません。
AIは膨大な知識を持っています。
しかし人間がその存在をまったく知らなければ、
AIの中にある知識へたどり着く質問そのものを思いつかない
可能性があります。
ここに私は、AI時代の学習について重要な意味があると感じます。
AI時代に人間が学ぶ理由
第1回では、
AIによって知識が不要になるのではなく、知識の役割が変わるのではないか
と書きました。
今回の実験を通して、その考えは少し具体的になりました。
これからの知識は、
すべてを暗記して、自分だけで答えを出すためのものではなくなるでしょう。
しかし、
問題を見る視点を増やすための知識
として、むしろ重要になるのではないでしょうか。
QCを知っているから「原因」という入口が見える。
IEを知っているから「流れ」が見える。
VEを知っているから「機能」が見える。
MBOを知っているから「目標」が見える。
知識が増えるということは、
AIに質問するときの「入口」が増えること
なのかもしれません。
人間とAIは、どのように役割分担するのか
今回の実験から、私は次のように整理してみました。
AIが得意なこと
大量の情報を整理する。
多くの仮説を出す。
異なる視点から考える。
選択肢を比較する。
文章や表にまとめる。
人間に残ること
何を問題と考えるか。
どの理論を使うか。
AIにどんな情報を与えるか。
現場の事実と合っているかを確かめる。
何を大切にするかを決める。
最後に実行を決断する。
ASQが示す問題解決の基本でも、問題を定義し、原因を確認し、解決策を実施し、その結果を維持することまでが一連のプロセスです。AIが案を出しただけで問題解決が完了するわけではありません。
今回の実験で一番大きかった発見
実験を始める前、私は、
「管理技術を指定すれば、AIからより専門的な答えが出てくるのではないか」
と考えていました。
確かに、それもありました。
しかし、実際に比較してみて、もっと重要だと思ったのは、
管理技術はAIに「答え」を教えるものではなく、「どこを見るか」を教えている
ということでした。
これは私にとって興味深い発見でした。
そしてこれは、VEやIE、QCだけの話ではないと思います。
マーケティングを学んできた人。
会計を学んできた人。
心理学を学んできた人。
法律を学んできた人。
教育を学んできた人。
それぞれが持っている知識によって、
同じAIを使っていても、問いの立て方は変わるでしょう。
AI時代の学びは「AIと競争すること」ではない
AIは人間よりはるかに大量の情報を保持しています。
それなら、人間がAIと知識量を競争する必要はありません。
しかし、
知識を持たなくてよい、ということでもない。
これからの学習には、
「覚えるための学習」
だけでなく、
「考える視点を増やすための学習」
という意味が、より大きくなっていくのではないでしょうか。
そして、その知識をAIと組み合わせる。
私はこれを、
人間の知識 × AIの能力
という関係として考えていきたいと思います。
73歳からのAI挑戦で、改めて学ぶ意味を考える
私は社会人教育の仕事をしていた時代に、MBO、VE、IE、QCなどを学びました。
その頃には、もちろん生成AIはありませんでした。
そして今、AIを学び始めて、何十年も前に学んだ考え方と最新の技術がつながり始めています。
これは少し不思議でもあり、とても面白い経験です。
新しい技術が登場したから、昔の知識を捨てる。
そうではない。
昔学んだ知識をそのまま守る。
それだけでもない。
これまで人間が蓄積してきた知識を、AIと組み合わせて使い直す。
そこに、これからの学び方の一つがあるのかもしれません。
今回の実験から、私はこう考えるようになりました。
AIが賢くなればなるほど、人間には「何を考えさせるか」を考える力が必要になる。
そして、その力を支えているものの一つが、
これまで人間が学び、蓄積してきた知識や理論なのではないでしょうか。
AIは、私たちから「学ぶ必要」を奪うのではなく、
むしろ、
「何のために学ぶのか」を変え始めている。
私は今、そんなことを考えています。
この記事は2回シリーズの第2回です。
第1回では、「AIが何でも答える時代に、人間が知識や理論を学ぶ意味はなくなるのか」という問題を考えました。
→ 第1回「AIが何でも答える時代に、人間は何を学ぶのか」から読む

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