自治会DX研究室 第2回
自治会の仕事を改善しようとして、最初からLINEやクラウド、AIなどの導入を考える必要はありません。
まず行うべきことは、自治会にどのような仕事があり、誰が、いつ、どれくらいの時間をかけているのかを整理することです。
私は自治会の区長(自治会長)を5年間務めるなかで、自治会の仕事は、表に見えている以上に多いと感じてきました。
回覧、会議、会計、行事、防災、名簿管理、行政への提出書類など、一つひとつは小さな仕事に見えます。しかし、それらが一部の役員に集中すると、大きな負担になります。
この記事では、自治会の仕事を「見える化」し、どこから改善すべきかを判断するための棚卸し方法を紹介します。
なぜ自治会の仕事を棚卸しするのか
自治会では、毎年同じ仕事が繰り返されています。
しかし、「前年もやっていたから」という理由だけで続けている仕事も少なくありません。
その結果、次のような問題が起こります。
- 区長や一部の役員に仕事が集中する
- 誰が何を担当しているのか分からない
- 引継ぎのたびに同じ説明を繰り返す
- 紙の資料や名簿を何度も作り直す
- 必要性の低い会議や行事が慣例として残る
- 担当者が替わると仕事の進め方も分からなくなる
この状態でデジタル機器や新しいサービスを導入しても、自治会の負担は十分には減りません。
仕事の流れを整理しないままデジタル化すると、紙とデジタルの両方を管理することになり、かえって作業が増える場合もあります。
自治会DXの第一歩は、道具を選ぶことではなく、現在の仕事を正しく知ることです。
自治会の仕事を7つに分ける
最初から細かく整理しようとすると、作業が複雑になります。
まずは、自治会の仕事を次の7分野に分けると整理しやすくなります。
| 分野 | 主な仕事 |
|---|---|
| 情報伝達 | 回覧板、広報紙、掲示板、住民への連絡 |
| 会議 | 役員会、班長会議、総会、関係団体との会議 |
| 行事 | 祭り、敬老会、作品展、清掃活動、スポーツ行事 |
| 会計 | 予算、決算、会費、支払い、領収書、監査 |
| 防災・安全 | 防災訓練、避難支援、防犯、危険箇所の確認 |
| 住民・名簿管理 | 世帯名簿、役員名簿、高齢者情報、転入・転出への対応 |
| 行政・外部対応 | 市への提出書類、公民館との連携、補助金、関係団体との調整 |
自治会によって仕事の種類は異なります。この7分野を基本にして、自分たちの地域に必要な項目を加えてください。
棚卸しシートに記入する7項目
仕事を挙げるだけでは、負担の実態までは分かりません。
一つの仕事について、次の7項目を記入します。
- 仕事の名称
- 担当者
- 実施時期・頻度
- およその所要時間
- 現在の方法
- 困っていること
- 今後の判断
「今後の判断」は、次の4つから選びます。
- 続ける
- 簡素化する
- デジタル化する
- 廃止・統合を検討する
この分類によって、単に仕事を並べるだけでなく、改善の方向まで見えるようになります。
自治会業務の棚卸し実践シート
次のような表を作り、役員で記入します。
| 仕事 | 担当 | 時期・頻度 | 時間 | 現在の方法 | 困っていること | 今後の判断 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 回覧文書の作成・配布 | 区長・班長 | 月2回 | 3時間 | 紙で印刷し各班へ配布 | 印刷と配布に時間がかかる | 紙を残しながらデジタル併用 |
| 役員会の開催 | 区長・役員 | 月1回 | 2時間 | 会議所に集合 | 日程調整と資料準備が大変 | 会議回数と資料を見直す |
| 会計記録 | 会計担当 | 随時 | 月4時間 | 紙の帳簿と表計算 | 転記や集計に手間がかかる | 様式を統一して簡素化 |
| 行事参加者の集計 | 行事担当 | 行事ごと | 2時間 | 紙や電話で受付 | 集計漏れ、連絡の重複 | 紙と申込フォームを併用 |
| 前年度資料の確認 | 各担当 | 引継ぎ時 | 不明 | 紙ファイルを探す | 必要な資料が見つからない | 保存場所と名称を統一 |
これは一例です。最初から完璧な表を作る必要はありません。
まず10件程度の仕事を書き出すだけでも、これまで見えなかった負担が分かってきます。
30分でできる棚卸しの進め方
棚卸しのために新しい会議を何度も開く必要はありません。役員会などの一部を使い、30分程度から始められます。
1.個人で仕事を書き出す(5分)
役員一人ひとりが、自分の担当している仕事を付箋や用紙に書きます。
「電話をかける」「資料を印刷する」「会場の鍵を借りる」といった小さな作業も省略しません。
2.7つの分野に分ける(5分)
書き出した仕事を、情報伝達、会議、行事、会計、防災・安全、名簿管理、行政・外部対応に分類します。
3.負担の大きい仕事を選ぶ(10分)
次の観点から、負担の大きい仕事を選びます。
- 時間がかかる
- 同じ作業を何度も繰り返している
- 一人しか方法を知らない
- 間違いや漏れが起こりやすい
- 住民から問い合わせが多い
- 紙の印刷や配布が多い
4.改善候補を3つに絞る(10分)
一度にすべてを変えようとせず、改善候補を3つ程度に絞ります。
- 会議資料の様式を統一する
- 回覧板の一部をLINEやメールでも届ける
- 行事の申込みを紙とオンラインの両方にする
- 過去の資料を年度別のフォルダーに保存する
- 毎年使う文書をひな型にする
ここで大切なのは、「何を導入するか」よりも、「どの負担を減らしたいか」を先に決めることです。
改善の優先順位を決める3つの基準
1.負担が大きいか
担当者の時間や手間が大きい仕事から確認します。特に、区長、会計、行事責任者など、特定の人に集中している仕事は優先して見直す必要があります。
2.改善しやすいか
費用がかからず、短期間で変更できる仕事を選びます。
資料の保存場所を統一する、文書のひな型を作る、会議資料を事前配布するといった改善は、比較的始めやすいものです。
3.住民への影響はどうか
役員の負担が減っても、住民が情報を受け取れなくなっては意味がありません。
高齢者をはじめ、スマートフォンを使わない人にも必要な情報が届くよう、紙の回覧や掲示板を適切に残すことが必要です。
「やめる仕事」を考えることも重要
自治会の改善というと、新しい仕組みを加えることばかり考えがちです。
しかし、本当に負担を減らすためには、「やめる」「減らす」「まとめる」という判断も必要です。
- 同じ内容を複数の会議で報告していないか
- 参加者の少ない行事を慣例だけで続けていないか
- 同じ名簿や資料を何度も作っていないか
- 紙で保存する必要のない資料まで印刷していないか
- 行政や関係団体からの依頼が一部の役員に集中していないか
長く続いてきた仕事には、それぞれ理由があります。そのため、担当者だけで廃止を決めるのではなく、目的と影響を確認し、役員や住民の理解を得ながら見直します。
棚卸しで避けたい3つの失敗
1.担当者を責める
棚卸しは、人の働き方を評価するために行うものではありません。
仕事の仕組みを改善するためのものです。「なぜ時間がかかるのか」を個人の能力の問題にしないことが重要です。
2.最初から細かく調べすぎる
すべての仕事について、正確な時間や回数を調べようとすると続きません。
最初は、おおよその時間と困っている点が分かれば十分です。
3.デジタル化を結論にしない
すべての仕事をデジタル化する必要はありません。
紙の方が確実で分かりやすい仕事もあります。紙とデジタルを適切に組み合わせることが、地域の実情に合った自治会DXです。
棚卸しは引継ぎ改善にもつながる
自治会の仕事を棚卸しすると、役員負担の軽減だけでなく、引継ぎにも役立ちます。
棚卸しシートに、使用する書類、保存場所、連絡先、注意点を加えれば、簡単な業務手順書になります。
担当者の経験や記憶だけに頼っていた仕事が整理され、新しい役員も全体像を早く理解できるようになります。
役員のなり手不足が深刻になるなかで、「初めてでも仕事が分かる仕組み」を作ることは、自治会活動を続けるための重要な条件です。
おわりに
自治会DXは、新しい道具を導入するところから始まるのではありません。
まず、現在の仕事を見える化し、負担がどこに集中しているのか、どの仕事を続け、何を見直すのかを話し合うことから始まります。
一度にすべてを変える必要はありません。
まず10件の仕事を書き出し、改善する仕事を3つ選ぶ。それだけでも、自治会DXの具体的な一歩になります。
自治会の仕事を人に合わせて抱え込むのではなく、誰にでも分かり、引き継げる仕組みに変えていく。それが、これからの自治会運営に必要な視点だと考えます。
次回は、「自治会の情報伝達を見直す方法」を取り上げます。
紙の回覧板を直ちになくすのではなく、LINE、メール、ホームページなどをどう組み合わせれば、役員の負担を減らしながら、住民へ確実に情報を届けられるのかを考えます。
OGURA AI実践研究所
自治会DX研究室

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